風間がを好いている事は、好かれている以外は誰もが気付いていたと思う。

 風間はその容姿から、実年齢より幼く見られる事が多く、風間自身が身長が低い事を自覚しているからか、一度目の間違いは大抵許してくれた。しかし、それ以降……いわゆる、わざと間違えたり、からかったりすると、手や足が出ることがあったことから、不快だと思っていた事に間違いなかった。そんな風間が、年上の男から頭を撫でられて何も言わず、甘つさえその行為を受けいれ、しかもそれを何度も目撃しているのを見てしまっては、誰もがこう思ったことだろう。
 
 風間は、を好いている、と。



「で、実際どうなワケ?」
「何がだ」

 仮想戦闘場での模擬戦を終えたばかりの諏訪と風間が会ったのは、仮想戦闘場から一番近い自動販売機の前だった。水やお茶、炭酸から甘い飲み物まで完備されているこの自販機は多くの隊員に重宝されている。近場に喫煙所があるから尚の事だ。

さんのことだよ」

 ちゃりん、と音を鳴らしながら風間が小銭を自販機に入れた。
 男の平均身長を下回る風間は諏訪と比べると小さいが、その実、同い年にしては大人びた行動と言葉を口にする事が多い。衝動的に動いてしまう諏訪と正反対の性格の持ち主ではあるが、諏訪と風間、この場にはいない木崎も集まって遊ぶことも多く、少し位プライベートに突っ込んだ話をした所で機嫌を損ねない程には仲がいいと自負している。

 風間は諏訪の言葉に「さぁな」と返すと、飲み物の蓋を開けて一口喉に流し込むと、喉が上下する度に、ごくりと小さな音が鳴った。

「さぁなって……好きなんじゃねぇの?」
「好いてはいるが、さんは俺の事を弟位の感覚にしか思っていないらしい」
「まぁ、そりゃあ……お前の頭を撫でる位だしな」

 は風間よりも年上で、年下に対して弟扱いをするのはまだわかる。ただ、同じ年下であってもは諏訪を撫でたりしないし、木崎も撫でられたことなんてないだろう。は風間を弟扱いしているというが、実際は弟よりも更に下に見ている可能性もあった。風間が何も言わないので、諏訪も木崎も口を閉ざしてはいるが。

「あー、告白は?」
「ついこの間した」
「え、まじで?返事は?」
「されていない。腹の立つことに逃げられた」
「……え、どうすんだよ」
「どうもしないさ」

 淡々と話す風間に諏訪は少し同情した。
 弟扱いされ、告白しても逃げられて、返事もされていないなんて、いくら風間といえ不憫に思えてならない諏訪だったが、風間の気分を害した様子は見られない。

「……?」

 散々な目に合っている筈の風間の機嫌がいい事に、諏訪は首を傾げたが、その理由はすぐにわかった。
 沢山の書類を抱えたが慌てながら廊下を歩いているのが見えたからだ。

「か、風間君……!」

 諏訪の隣に立つ風間を見つけると、は目を丸くし、顔を赤くして慌てて逃げた。

 そう、逃げたのだ。いつもなら、風間の頭を撫でて可愛がるが、風間を見て逃げた。それもあからさまに、顔を赤くして。告白して逃げたというの反応は、ある意味正しくはあるが、いい大人が告白されただけでこんな反応をするのは少し疑問に思え、諏訪は隣の男による別の理由がある気がした。

「……お前、さんに何したの」

 諏訪よりも幾分も小さい男に視線を向ける。
 風間は逃げられて悲しいというよりも、楽しそうに笑いながらが逃げていった方を見つめている。

「弟扱いに飽きてきた上に俺はエロ本を見ないという幻想を抱いていたみたいだからな。“男はオオカミ”なんだと教えてやっただけだ」

 諏訪は加えていた煙草の火を消した。
 いつの間にやら飲み終えたボトルを風間がゴミ箱へと捨てる。その間にと風間に対する色々な感想が出てきたものの、先程風間を見たの反応と、風間の長い片想いが成就したであろう事に、諏訪は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。





 風間はから弟のような扱いを受けていた事、もしくは幼子のようなその扱いには前々から不満があった。
 それでもの仕事が忙しい中、度々構ってもらえる事が嬉しくて口には出さなかったのだが、今では何故そういう話になったのかは思い出せないが、は言ったのだ。

 エロ本なんて風間君が見る訳ないだろ、と。

 風間だって男であるし、見た目から幼く見られる事は多くとも、実年齢は二十歳を超えている。そういった類の物に興味本位で手を出したことも、お世話になった事もある。男であればおそらく誰もがそういう経験があるだろうに、の中の風間は随分とピュアに出来ていたらしい。

 好きな相手にそんな幻想を抱かれていた風間は、そんな幻想を打ち砕くかのようにの事を押し倒した。

「……あいにくだが、俺はエロ本も見るしAVも観る。興奮したら抜くし、最近はアンタを犯すことしか考えていない」

 が混乱しているのを良い事に、そっとの頬に触れる。
 の身体が大きく跳ねたが、抵抗もせず、顔を真っ赤にさせたを前にして、我慢なんて出来るわけがなかった。


(2016.05.31)

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